老人ホームへの面会に行きたくない。それは、決して冷たい心からではありません。
「会いに行かなきゃ」と頭ではわかっていても、なぜか足が重い。誰かに責められたわけでもないのに、心のどこかでチクリとした罪悪感が芽生える。そんな自分を責めて、またさらに行きたくなくなる…。この感覚、経験のある方も多いのではないでしょうか。
面会に行きたくない――そう感じる自分を否定しなくて大丈夫です。その背景には、いくつもの感情が複雑に絡み合っているからこそ、一度、ゆっくり紐解いてみましょう。
人は、理屈だけでは動けない生き物です。いくら「親なんだから」「家族なんだから」と思っても、心がついていかない日だってあります。そんなとき、「なぜ行きたくないのか?」を自分の中で言葉にできるだけで、少し気持ちは軽くなるものです。
たとえば、こんな理由、思い当たりませんか?
まず、多くの方が感じているのが「心理的な負担」です。施設に入ってもらったことへの罪悪感。入居前は「自宅で最期まで面倒を見る」と口にしていたけれど、現実はそれが叶わなかった――そのことに、どこかで後ろめたさを感じてしまう。
そして、面会のたびに「ここは嫌だ」「家に帰りたい」と言われると、心が締め付けられるような気持ちになりますよね。「連れて帰ってあげられない自分って、冷たいのかな?」と、自問自答することもあるかもしれません。
でも、それは「冷たさ」ではなく「愛情」ゆえの葛藤なのです。どうか、自分を責めすぎないでください。
また、「過去の人間関係」に根を持つケースもあります。親子の関係がずっと良好だったとは限りません。幼い頃からの確執、言えなかった思い、許せなかった言葉…長年積み重ねてきた感情が、面会という場面で一気に押し寄せるのです。
実際、「今さら顔を合わせても、何を話せばいいのかわからない」「目を合わせるのも苦痛だ」と感じる方も少なくありません。愛情と怒りが入り混じる親子関係は、とても繊細で、簡単に割り切れるものではないのです。
さらには「物理的な距離」という現実的な壁もあります。施設が自宅から遠く、片道1〜2時間かかるケースもざらです。特に車がない、電車の乗り継ぎが複雑といった条件が重なると、それだけで気が滅入ってしまうのも当然です。
忙しい日常の中で、「今日は行こうかな」と思っても、移動だけで体力も気力も使ってしまう。結局、「また今度にしよう」と先延ばしにするうちに、どんどん足が遠のいていく…。
それに加えて、見落とされがちなのが「経済的な負担」。交通費、時間調整のための休暇、時には宿泊費…。特に収入に余裕のない家庭やシングル世帯にとっては、面会が大きな出費につながることもあるのです。心では会いたくても、現実がそれを許してくれない。そんなジレンマを抱えている方も、多いのではないでしょうか。
では、この“行きたくない”気持ちとどう付き合っていけばいいのか。完全に消すことはできなくても、少しだけ視点を変えることで、心の負担を軽くすることは可能です。
一つ目の提案は、「オンライン面会」の活用です。コロナ禍以降、多くの施設がビデオ通話に対応するようになりました。スマホやタブレット越しではあるけれど、顔を見て話せるだけで、安心感はぐっと高まります。
「画面越しなんて味気ない」と感じるかもしれませんが、それでも“会えた”という事実は、大きな意味を持ちます。ときには、実際に訪れるよりもお互いに気楽に話せるということもあるんです。
また、「面会時間の柔軟化」に対応してくれる施設も増えています。平日昼間に行くのが難しいなら、夕方や週末に時間をずらせないか、施設に相談してみる価値はあります。職員さんは、家族の事情も含めてできる限り協力したいと考えてくれる存在です。
さらに、「家族間での面会の役割分担」もおすすめです。兄弟姉妹でスケジュールを分けたり、近くに住む親戚がいれば協力を仰ぐなど、一人で全部を抱え込まないことが大切です。負担を分け合うことで、「行かなきゃ」ではなく「行けるときに行こう」という気持ちに変わっていきます。
そして、どうしても心の整理がつかないときは、専門家の力を借りるのも選択肢の一つです。心理カウンセラーとの対話の中で、「どうしてこんなにも面会がつらいのか?」という自分の気持ちを丁寧に見つめ直すことができます。話すだけでも、驚くほど気持ちが晴れることがありますよ。
また、他の家族の声を聞ける「家族会」や「座談会」に参加してみるのもおすすめです。「あ、自分だけじゃないんだ」と思えることで、少しだけ心に余裕が生まれることもあるのです。
面会に行きたくない――それは、誰かを傷つけようとしているわけでも、冷たい心を持っているわけでもありません。
大切なのは、自分の心の声にきちんと耳を傾けること。
無理に“いい家族”を演じるのではなく、自分のペースで、できる範囲で、愛情を伝える方法を探すことです。
会いに行ける日も、行けない日も、どちらもあなたのやさしさがにじんでいます。だからこそ、どうか自分を責めず、時には立ち止まってもいいと、自分に許しを与えてください。
家族のカタチは、一つじゃありません。
会いに行くことだけが「愛」ではないということも、忘れないでいてくださいね。
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