知らなければ、守れない──“老い”にやさしい社会を支える減免制度というセーフティネット
ある朝、親の介護を考えていた友人からこんな電話がありました。
「ねえ、特養って高いんでしょ?うち、そんな余裕ないんだけど…」
私は一瞬、返事に迷いました。確かに、施設の入居費用や毎月の支払いを目にすれば、ため息が出てしまう人もいるでしょう。でも、ちゃんと伝えました。
「実はね、国や自治体には、収入に応じて費用を減らしてくれる制度がいろいろあるんだよ。ちゃんと調べて、申請すれば、ずいぶん助けられるんだよ」
そうなのです。日本には「必要としている人を見捨てない」ための仕組みがちゃんとあります。ただし、それを知っている人は、まだまだ少ない。使い方が分からず、結局あきらめてしまう人もたくさんいるのです。
この記事では、特別養護老人ホーム(通称「特養」)にかかる費用を軽減するための制度について、できる限りわかりやすく、かつ深く掘り下げてご紹介します。
なぜ、特別養護老人ホームの費用が負担になるのか?
特別養護老人ホームは、主に要介護3以上の高齢者が入居する、介護保険制度に基づく公的な施設です。民間の有料老人ホームと比べれば費用は比較的抑えられていますが、それでも毎月の支払いは軽くはありません。
具体的には、施設サービス費(介護費用)、居住費(部屋代)、食費、日常生活費などを合わせて、月額で10万円前後かかるケースが一般的です。これが年金収入だけの生活者にとって、どれほどの重荷になるかは想像に難くないでしょう。
そこで登場するのが、「負担を軽くする制度」。日本の介護保険制度は、「自立支援」と「公平な負担」を軸に設計されているため、経済的に厳しい人には救済措置が用意されているのです。
特定入所者介護サービス費──“低所得でも安心して暮らせる”ための基本支援
まず覚えておきたいのが「特定入所者介護サービス費」。これは、いわゆる「補足給付」とも呼ばれる制度で、住民税非課税世帯を対象に、食費と居住費の負担上限を設定してくれる仕組みです。
収入や預貯金額によって、4つの区分に分かれており、それぞれ負担限度額が異なります。例えば、最も所得が低い「第1段階」では、月額数千円からの負担で済むこともあります。
ただし、この制度には落とし穴もあります。預貯金の上限があり、単身なら1,000万円、夫婦なら2,000万円以上の資産があると対象外になります。申請は市区町村の介護保険窓口で行います。申請書だけでなく、通帳のコピーや年金通知書の写しなど、証明書類も必要になるため、早めの準備が肝心です。
高額介護サービス費──“もし月々の支払いが多すぎたら”のセーフティネット
次に紹介するのが、「高額介護サービス費」。こちらは、1カ月に支払った自己負担額が、所得に応じた上限額を超えた場合に、その超過分が払い戻される仕組みです。
6段階に分けて負担上限が設定されており、たとえば住民税非課税世帯であれば、月額15,000円が上限。それを超えた額は後日返還されます。自動的に返金されるわけではなく、市区町村から送られてくる申請書に記入・押印して返送する必要があります。
要介護度が高く、日々の介護サービス利用が多い方ほど、この制度の恩恵を受ける可能性が高くなります。忘れずに確認しましょう。
高額医療・高額介護合算療養費制度──“医療と介護”を両方使っている人のために
もし、医療保険と介護保険の両方を使っているなら、ぜひチェックしておきたいのが「高額医療・高額介護合算療養費制度」です。
これは、年間で支払った自己負担額の合計が上限額を超えた場合、その超過分が返還される制度。医療費も介護費も、どちらもかかる生活が当たり前になっている高齢者にとっては、まさに命綱のような支援です。
上限額は所得によって異なり、申請先は加入している医療保険の保険者(市町村国保や健保組合など)です。年に一度、自分の支出を振り返りながら、しっかり申請を行いたい制度のひとつです。
社会福祉法人等の利用者負担軽減制度──“生活に困窮していても、ケアは受けられる”ために
この制度は、生活保護受給者や、住民税非課税でなおかつ一定以下の年収・資産しかない人を対象に、施設サービス費の自己負担額を軽減する制度です。対象となるサービスは、特養の入所だけでなく、訪問介護や通所介護(デイサービス)なども含まれます。
たとえば、老齢福祉年金を受けている方は、利用者負担の半額が軽減されることもあります。申請は市町村窓口で行い、生活状況を証明する書類の提出が求められます。
「お金がないから施設に入れない」とあきらめる前に、まずはこの制度を調べてみてください。
ユニット型特別養護老人ホームの居住費助成──“より家庭的な環境”を諦めないために
近年増えてきた「ユニット型特養」。従来の大部屋タイプと異なり、プライバシーを重視した個室での生活が可能です。ただし、費用が高めに設定されている場合が多く、希望しても断念せざるを得ない人も少なくありません。
そんな方のために用意されているのが、「ユニット型特養居住費助成制度」。所得に対して利用料の負担割合が高いと見込まれる人に対し、居住費の一部を助成するもので、自治体によって助成額や条件が異なります。
「できるだけ自宅に近い感覚で過ごしてもらいたい」という家族の思いにも寄り添ってくれる制度です。
医療費控除──“確定申告が面倒”でも、大きな返還があるかも?
最後にご紹介するのは「医療費控除」。これは年間で支払った医療費が一定額を超えた場合、確定申告をすることで、所得税や住民税が還付される仕組みです。
意外に知られていないのが、特別養護老人ホームの費用の一部(施設サービス費のうち2分の1)が、医療費控除の対象になるという点。さらに、通院の交通費や薬代なども含めると、意外なほど多くの金額が戻ってくることがあります。
確定申告の手続きは少し煩雑に感じるかもしれませんが、今ではスマートフォンやマイナンバーカードを使って簡単に済ませる方法もあります。数万円、あるいは十数万円単位で返ってくる可能性もあるこの制度、ぜひ活用しましょう。
大切なのは、「制度を知ること」ではなく、「制度を使うこと」
ここまで読んでくださったあなたは、きっと「こんなに支援があるなんて知らなかった」と思ったかもしれません。
そうなのです。情報は、知っている人だけに恩恵をもたらします。けれど、制度の存在を知らなかったばかりに、家族が苦労したり、選択の幅を狭めてしまうことも少なくありません。
だからこそ、誰かが一歩を踏み出して、情報を集め、相談し、動くことがとても大事。それが、家族を守る力になるのです。
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